「シェリ」を読んでいて、女性たちの女らしいおしゃれについての考えを知るのも一つの楽しみなのです。レアは長年ギャラントリーの世界に生きてきた、粋な美人ですから、当然一般の女性よりも自己評価が客観的できびしいのでしょう、なにより自分が商品であるという女性なのですからね。
特に色彩について、似合うかどうか、レアの目はホント、的確というか、きびしいのでした。
「今じゃ顔の近くには白い布をもってこなくちゃならないし、下着や部屋着は淡いばら色でなければダメ。」
エドメの母マリ・ロールを評して
「しわ一つ無いわ、あんな甘ったるいモーヴ(薄紫色)が着られるんですもの、あの薄汚い色はあたし大嫌い、もっとも色のほうも私を嫌いみたいだけど」
といっています。
レアは散歩に行こうとして、「頑丈な靴底のついた黄色いアンクルブーツと山や森をうろつくのにふさわしい無粋なコスチュームを」着たりもしますが、家を出てすぐに、ひょっとしたら別れたシェリに出くわすのではないか、という予感から引き返して「桃の花の色をしたティーガウン」に着替えたりします。好きな人の前では最高の状態でいたいと思う女心が衣装へのこだわりから伝わってきて、レアはほんとに可愛い人だな~と思わせるのですよね。
「こんな郵便配達みたいな靴をはいて、ごっついジャケットで着膨れしたところを見られるなんて、どうせ会わなくちゃならないんなら、ほかの格好をしているときがいい。だいいちあの人は茶色が大嫌いなんだから」 レアはいじらしいな~・
全体を通して、レアは年齢的にちょっと太り始めたのを気にしているらしい記述がたくさん出てきます。世紀末の美人写真などをいろいろ見比べると、当時の女性にはやせていることがステキという価値観は薄かったようで、グラマーな女らしい美人が多いのです。
レアの職業のココットの生活というのも、当時の伝説的ココット、リアーヌ・ド・プージィの伝記から予想するに、毎日毎日レストランでお食事して社交に顔を出し、それもこってりしたフランス料理なわけで、かなり高カロリーな暮らしぶりであることが予想できます。
しかも当時は女性がやせるためにダイエットしたり、スポーツしたりするというのは、なかったわけで、年配になるとどんな美女もおそらく現代の女性よりは早めにぽっちゃりしてきたり二重顎になったりしたのでしょうね。
そういうちょっとぽっちゃりした体型をシャープで粋に、女性らしく見せるためにレアはおしゃれに気を使っていたのが随所からうかがえて、こういうのはコレットが女流作家だからこそ細かく描ける部分なのか、と思うのです。